ざ あ ざあ ざ あ ざ ぁ ああ、何て不規則な雨の音。雨の途切れるそのいっしゅん、懐かしくも感じる殺意が生まれる。けれどその殺意を向ける矛先は無く、風船がしぼむようにもしくは記憶にふたをするように小さく小さくなっていく。吐き気がする。というかなんでこんなところに居なければならない?ラストはとっくの昔にお父様のところへ帰ったというのに。クソッのけ者じゃん。 「あなた、傘は?」 そんな優しい声をかけられたって、何とも思わないよ。 「そんな格好で寒く無いの?」 ざ あ ざ あ ざ 「傘、あげる」 ざ ぁ 「・・・ああ、その顔見たことあるよ」 女はわけが解からないという顔をした。そういうマヌケ面、うっとーしーんだよね。 「そーいう親切ってさあ、逆にうざいんだけど」 「え・・・」 「偽善者ぶってる感じがしてさあすごいムカツク」 「あの、」 「こんなもの、要らないよ」 ぱあんッ と傘が空へと舞い上がり、雨が規則正しくざあざあざあと振る。心地良い。女の驚いたような悲しいような表情が心地良い。 「ってまったく馬鹿だよね」 その愚かさもぜんぶひっくるめて大好きだからいやになる。 雨を防ぐものは無くなった。さあ、唇を。 |