f i c t i o n

 




誰も何かを救ったりしない。手を伸ばすのは偽善だ。でもあんたのその手は偽善ですらない。私を陥れるための手だ。


「あんたは何も知らないからそういうことが言えるんだよ」
「何も教えてくれないのはエンヴィーでしょ?」
「何かを手にする甘美さも、全てを失う絶望も知らない」


エンヴィーが私に触れる。この手は嫌だ。冷たくて感情の無い手。善意も嘘も欺瞞も愛も何も何も何も何も感じない。ただ気紛れに現れて私の神経を逆撫でるだけ。フィクションだったらどんなに良かったか。


「放してよ」
「ねえ、どうして何も知ろうとしないんだ?」
「エンヴィー」
「この世にフィクションなんて無いんだよ」


私の手を掴むこの冷たい手だってその目だって全てノンフィクション。逃げられない現実と私をつなぎとめようとする。私を殺しもしないその手はただ私を現実に生かし続ける。逃げる私を縛りつけてあんたはいつも笑ってる。


「ひとりで逃げるなんて許さないよ、