「最後に会った時、貴方は十やそこらの少女だったのに。女の子は成長が早くていけない。」




 背後からそうかけられた声に呼吸が止まった。だって、なんで、いまさら、どうして。


「キン、ブリー さん」
「久しぶりですね、。」


 そう言って微笑む彼に眩暈がした。だってあなたはたくさんの味方を殺して刑務所に入っていたんでしょ?死刑になるはずだったんでしょ?(小さい頃はどうしてあなたが突然いなくなくなってしまったのか分からなかった。全部ママに教えてもらったわ。)


「どうして、ここに。刑務所にいたんじゃ。」
「国の偉い方に出してもらったんですよ。元気でしたか?」


 あなたはするりと手袋を脱ぎ素手で私の頭を撫でた。ああ、その刺青。幼い頃の記憶が蘇る。
 ねえ、あの頃私は本当に幼かった。そして気付いていなかったけれど、あなたのことが本当に好きだった。あなたは私にたくさんのことを教えてくれた。あなたのお仕事のこと。錬金術のこと。食事のマナー。キスの仕方。秘密のおまじない。私は精神的にあなたに蹂躙されていたけれど、それを全く疎ましいと思わなかった。あなたは私の憧れだった。そんなあなたがある時からぱったりと私の家に来なくなった。最初はお仕事だから仕方ないと分かっていた。だけどある日ママに尋ねると、ママは難しいことを全部教えてくれた。あなたが仲間の兵士をたくさん殺したこと。そしてきっと死刑になるだろうということ。もう二度と会えないのだということ。それを聞いて私はそれこそ枯れてしまうくらい泣いた。胸に穴が空いてしまったように感じた。だけど私は幼くて、それ以上何をしたらいいのか、何をすべきなのか、何ができたのか全く分からなかった。生きる上でのただの一つの別れに過ぎなかったのだ。友達が引っ越してしまうのと変わらない。でも少し違ったのは、その悲しみが何年経っても癒えなかったこと。成長していく過程であなたのことを忘れても、ふとした瞬間に思い出しては潰されそうな程に悲しくなった。そして成長していく過程で「ああ、私はあの人の事が好きだったんだ」と悟った。でももう遅い。あなたには二度と会えない。そう思っていたのに。


「覚えていますか?貴方、大きくなったら私のお嫁さんになるだなんて言っていた。」
「ええ、覚えてるわ。」
「私は貴方を迎えに来たんですよ。」


 ああ、胸が張り裂けそうだ。あなた、いったい、いまさら、どうして。


「ねえ、キンブリーさん。私あの頃、本気であなたのお嫁さんになるのを夢見てた。でも今更どうなるっていうの?私はもう待ってただけの女の子じゃない。恋人だっているし、キスの仕方は貴方から教わったけれど、もうそれ以上のことだって知ってる。」


 もう遅い。私はもう純粋な少女じゃない。毎月血を見る女に成った。恋人に触れられながら、刺青の入ったあなたの手のひらに触れられる想像をしていたの。嫌らしいただの女に成り下がってしまった。


「ねえ、もう遅いのよ。」
「遅い事なんて何もない。私は変わらず貴方を愛している。あとは全て貴方次第だ。」


 触れるだけのキス、は幼い頃にあなたに教えられたものだ。私は長いこと、全てを壊すあなたの両手に触れられたかった。


「もうあなたの知らない女だわ。」
「貴方の価値観を造ったのは私です。。」



 あなたの手が私に触れる。
 ああ、私は幼い日の憧れを簡単に踏み躙られるほど大人にはなれないわ!



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