melancholy education






「私は生きるって決めたんです、少佐」


少佐が私のことを可哀想な目で見ている。ねぇ少佐、生きるってなんて重たいんでしょうね。押しつぶされない丈夫さが憎らしいよ。もしここで私があなたのことを好きだと言ったとしても、それはあなたの人生にとっては通過点でしかなくて、いつの間にか記憶の片隅からも消え去ってしまう小さな出来事なんでしょう。あたしが誰かに愛されたとしても、裏切られたとしても、転んだとしても、それはあなたの人生になんの関わりもないの。


「毎日どこへ向かって生きたらいいか分からないんです。きっと誰だってそう。でもきっと誰もが、自分自身をいちばん可哀想がりたいんだと思います。だから自分以外の人間を羨むんです。隣の芝は青い。そのことにとても、押しつぶされそうになるんです。実際押しつぶされてしまった人もいると思う。きっと押しつぶされてしまった方が楽なのでしょうね。もうそれ以上悩まなくて済むのだから」
は、それでいいのであるか」


あなたは確かに逃げたけれど、押しつぶされはしなかった。もう一度立ち向かうことを選んだ。本当は少しだけ、そんな少佐を嫌悪していたの。馬鹿なひと、もう一度わざわざ苦しむ道を選ぶだなんて、って。けれど自分が現実に押しつぶされそうになって初めて、あなたの強さを知った。そして優しさも。私は博愛主義ではないから、あなたのように全てに優しくなんてできない。そう気付いたときに、優しさとは強さなのだと初めて知った。そしてあなたのことをとても愛しいと思った。全てに優しいあなたにいちばんに優しくされたいと思った。あなたが生きる道を選んだのならば、私も生きようと思った。


「本当は押しつぶされて諦めてしまいたかったんです。失ったものが重すぎたから。もう二度と立ち上がれないと感じました。けれど多くのものを自身の手で消し去っても、それに潰されずに生きようとする人を知ったんです。苦しいと解っているのに。その人の側で生きたいと思ったんです。だから私は軍を辞めません。この世界で生きます」


綺麗事だ。感情だなんていつ揺れるか分からないのに。それでも私は、あなたを愛しいと思った瞬間を一生忘れたくないと感じたから。あなたにとって守ることが生きることならば、私にとって生きることとは何なのか。一生知らないままかもしれない。それならば一層、私はいまこの一瞬の感情に素直に生きたい。


「間違っていたと悔やむときが来るかも知れない。それでもきっと、自分の気持ちに素直に生きたことには後悔なんてしません。私の望みはただ一つ。優しすぎるあなたに幸せになってほしいんです」



(20130828)