「世界はどうして終わってはくれないの?」 「しごく簡単なことだよ。君はまだその答えを見つけられないのかい?」 彼はわたしの目を両手で優しく覆い隠していた。 彼の声だけでは彼の表情は読み取れない。 (もしかしたらわたしを嘲笑っているかもしれない)(もしかしたら泣いているかもしれない)(もしかしたら)(もしかしたら) でもそのバランスが今の状態では丁度良くて、きっと手を離すとわたしは見たこともない世界に立っているのだ。 彼が必死に隠したがっている世界をわたしは見たことがない。 「簡単?それはあなたの感覚でしょう。わたしはどれほどに時間を費やしても答えが見つからない。」 「探し方が悪いんじゃないかな。海の浅いところだけに貝殻があるわけじゃないんだから。」 「深いところに踏み出すほどの勇気なんて備わってないわ・・・・・・。」 わたしがそう言うと、彼は手を離し、わたしのまぶたに優しくキスをした。 わたしはいま立っている世界を(彼の表情を)見るのが怖くて、目が開けられなかった。 「どうして目を開けてくれないんだい?」 「怖いのよ、わたしを常に裏切っていく世界を見るのが。」 「怖くなんかないよ。」 「怖いわ。だって、あなたとわたしは違うんだもの。」 わたしがそう言うと、今度は彼はわたしの頬にキスをした。 「世界がどうして終わってくれないのか、教えてあげようか。」 「教えて、どうしても。」 「君一人の些細な思いだけで終わってくれるほど、世界は優しくないからさ。」 ああやっと見つかった答え。世界はすでにわたしを裏切っていたのね・・・・・・。 わたしは世界でほんのちっぽけな存在でしかない。きっと居ても居なくても何も変わらない。 それとも世界が大きすぎるの?わたしなんかただの細胞の塊でしかないのだから。 目を開けると、そこにはひどく優しく微笑んだ彼が居た。(わたしの目の前に居る人がわたしを裏切らないという保障は?) 「だけど僕ならば、君一人の些細な思いだけで世界を終わらせることが出来る。」 「え?」 「僕ならば、君の願いを全て叶えることが出来るということさ。」 「・・・・・・・・・」 「さあ、選びなさい。このまま裏切っていく世界の中で生きていくか、僕といっしょにだれも君を裏切らない新しい世界を造るか。」 彼の笑顔が優しすぎて怖かった。食べ尽くされてしまう。 結局彼だってわたしのことを・・・・・・・・・。 「どうせ選択の余地なんてないんでしょう?」 「よくわかっているじゃないか。さあ飛び出そう、ここは君が住むには狭すぎる。」 「ねえ、それよりキスをして。」 「ああ、でもそれは夢の中で十分だろう?」 彼の優しい茶色の髪の毛が頬をかすった。 ねえ、お願いがあるの。 「今すぐにここで、キスして。」 |