大人はなんでも知ってると思ってた。大人になれば、何もかもわかると思ってた。どんな風に怒りを飲み込むのだとか、どんな風に笑えばいいのだとか。恋の駆け引きだとか、つらいときの誤魔化し方だとか。大人は全部知っていて、私も大人になれば全部わかるのだと思っていた。
 でもどんなに年を重ねていっても、明確な答えなんて何一つ見つからなかった。憧れの制服を着て、あの頃はもう大人だと思っていた年齢に達しても、わかったことなんて何もなかった。私は子供のころの私の延長線上に生きているにすぎないのだ。誰だってそう。それなのに「大人」は、やっぱり全てを知っていた。


「どうしてそんなに上手く言葉が使えるの?」
「長く生きてるからねえ。君よりも、たくさん」


 嘘だ、嘘。だってあなただってヒトの子なのに。多くを知り尽くすあなた。私はあなたのように上手く他人を魅了することも、突き放すこともできないのに。私も、あなたくらいの年になれば身につけることができるの?でもとてもそうは思えないよ。だって今の私は、あなたにとっては子供のような年齢でも、私にとってはいちばん大人なのだから。


「ずるいな、なんか」
「どうして?」
「大人には、全部見透かされてるみたい」


 春水さんは少しだけ笑って「そうだといいんだけどねぇ」と言った。キス、したしゅんかん少しひげが痛かった。


「痛い、春水さん」
「そうかい、ごめんね」
「ねぇ春水さん、すき」
「・・さぁ、黙って」


 あなたは愛の言葉を紡がない。子供の私には理解できない、少し苦しそうな顔をするあなた。心が読めない。私はあなたを上手く愛せている?噛みつくようなキスと服の下を這う指先。ああ、思考は停止・・・・




私を溶かすことができるのは



あなたの手だけ