もしあたしがまるで呪いみたいに誰かの記憶にずっといられるのならイヅルくんの中がいいな。彼はいつも苦労を強いられていて見ていてかわいそうだ。でも安い同情なんか絶対にくれてやらない!言葉にするのは簡単だけど形になったことばは取り返しがつかない。じゃあ行動で示してなんて言えるほどあたしは可愛い女じゃないし、むしろ疲れきったイヅルくんをさらに陥れようとしている。


「ねぇイヅルくん。もしこの世がイエスかノーしかなかったらあたしたちはどうするべきなのかな」
「どうして君はいつも、そうやって…」
「ごめんねイヅルくん。でもあたしもどうしたらいいか解らないの」


あたしたちはたぶん無かったことになる方がいいんだろう。あたしのためにも。貴方のためにも。でもあたしはそんな風に居なかったことになんてなりたくない。愛する人の中から消えてしまうくらいなら、美しい幻想なんて要らない!だから傷跡でも爪あとでも、なんでもよかった。とにかくあなたに何か傷をつけたかった。いつか(遠い未来に!)、あたしのことを少しでも思いだしてくれるように。あたしのことを、完全に忘れ去ったりできないように。


「あなたは一度たりともあたしを見てくれなかった」


貴方があたしを抱くとき、貴方はいつもあたしじゃない誰かを見ていた。「誰か」なんて言葉は曖昧で、真綿で首を絞めるようだ。少しずつ酸素を奪って指先をしびれさす。


「あたしはあなたがあたしを忘れられなくなるくらい、あんたを傷つけたいんだよ」
「ごめん」
「大好きよイヅルくん」


あたしと貴方の世界にはあたしたち以外は必要なかったのに。貴方はそうは思ってくれなかった。貴方の目線の先のあの子、を傷つければ、あたしたちは互いに消えない傷を残せるだろうか。