真っ赤な月がやけにリアルに笑ってる。わたしは普段は何とも思わないそれがやたらと恐くて、恐いと思っている自分が滑稽で気持が悪かったので隣を歩くアレンの手を強く強く握った。アレンはそんなわたしにいつも通り優しく笑いかけて「どうしました?」と言った。





「なんでもない」
「もうすぐホームに着きますね」
「うん」





歩いても歩いても歩いても歩いても・・・たどり着かないホーム。「もうすぐ」という言葉はもう聞き飽きた。それでも隣から居なくならないアレンだけが頼みの綱。アレンが居なかったら、わたしはきっと真っ赤な月に打ちのめされてホームになんか帰れない。それがどんなに醜くて滑稽な姿だったとしても、誰にも曝すことなく消えてしまうでしょう。でもきっともうすぐもうすぐ、もうすぐホームについて魔法のようにこの赤い月を消す朝がくるに決まってる。





、もうすぐホームに着きますね」
「うん」
「恐いんですか?」
「なにもこわくないよ」





アレンの心臓はコントラバスみたいに心地良く響いた。その音だけが、それだけが、唯一安心できた。わたしもアレンもまだ生きている。  ・・・ほんとうに ? アレンの心臓はわたしの心臓じゃないよ。わたしは開いている右手で心臓のあるあたりに手を当てた。あれれ、心臓はどこにあるんだっけ?どくんどくん、これはアレンの心臓の音。





「アレン、わたしの心臓はどこ?」
「もうすぐホームですよ」
「ねえアレン、」
「ホームに帰ったらたくさん寝ましょうね」
「アレン、」
「眼球が溶けてどろどろになるくらい寝たいですね」
「ア 、」
「ほら、ホームに着きましたよ」





ただいまわたしの愛しいホーム!





「ただいま、はどこかに心臓を落としてきてしまいました」



























































「おはよう。よく眠れた?」
「おはようリナリー。とても酷い夢を見たわ」


テンポのわからないティンパニーのようにはしたなく鳴り響くわたしの心臓。


「おかえりなさいわたしの心臓」